2020年(令和2年)8月グリーフワークかがわ
ニュースレター第196号(HTML版)

2020年(令和2年)9月5日 グリーフワークかがわ広報部

「心の穴を埋める花」


私はお寺の住職です。毎月月命日にお勤めさせていただいているあるお家の仏壇には、思わず「うわぁ、すごいねぇ!」と声が出るほど、溢れんばかりのお花が供えられています。そのお花はすべてお婆さんが自分で種を撒き、育てたもの。《手まめで園芸が大好きなお婆さん、自身の健康のためにも毎日太陽の下でお花の世話をして仏壇にも供えている。》日頃のお婆さんの話しぶりから、私はそうとばかり思っていました。

ある時、お婆さんがふと話してくれました。「ほんの1週間ぐらいで死んでしもうた…。ほんまに何もしてあげられんかったから、今してあげられるのはこうしていっぱいの花を供えることだけ。いつも花をきらさんように、花が咲く時期も考えていろんな花の種、蒔いとるんで。」

実はおばあさんは40年ほど前に、まだ20代だった長男さんを亡くしています。ご主人も若い時に亡くして、看護師をしながら女手一つで育ててきた息子。そんな息子さんがある朝、体調不良を訴えたかと思うと、病院に行っても原因は不明。何の治療もできないままわずか1週間ほどで亡くなってしまったそうです。

息子さんを亡くした悲しみと共にある【何もしてあげられなかった】という無念。40年以上の歳月が過ぎ、お婆さんも90歳を超えた今なお、その悲しみと無念は癒えてはいないのでしょう。たくさんの花を育て、目一杯仏壇とお墓にお供えし、手を合わせる、それを日々続けていることで心の中の穴を少しでも埋めていっているのでしょう。子どもさんを亡くして、何十年もたった今でも生きていたらもっと食べさせてあげられただろうとおやつをたくさんお供えし続けている方もいます。自分の中にある埋められない穴を、何かをすることで埋めようとする作業、花やおやつをお供えすることもグリーフワークとなっているようです。


グリーフカウンセラー 中原大道




 リビングwithグリーフ 


「屁屎葛の名前」

花岡 正憲


2017 年戸籍法施行規則の改正により,人名に使えるのは,常用漢字と人名用漢字あわせて 2999 字と,片仮名及び平仮名(変体仮名を除く),長音記号,踊り字(「々」など)である。

グローバル化の中で,漢字ではあるが,ローマ字表記にすると欧米でも馴染みのある名前であったり,外国名を漢字や平仮名などであて字表記したりするものも目立つようになった。昨年は元号の「令和」に因んだ名前も少なくなかったことだろう。

人名には,「死」「殺」「亡」「失」「悪」「魔」も使えるようになっている。子どもへの親なりの思いから,こうした字を使って命名し,戸籍係へ届けると,子どもの人格権を侵害する恐れがあると言われ,物議を醸すこともある。

名は体を表し,その持ち主の人生に影響を与える。名前負けも気になる。そんな期待と不安が交錯する中で,姓名判断を受けたり,名づけ親を求めたりすることもある。いずれにしても,わが子の命名には,多かれ少なかれ苦悩する命名者の美学がある。

名前があるのは,ヒトだけでない。すべての生物にヒトがつけた名前がある。「雑草という草はないんですよ。どの草にも名前はあるんです」とは,生物学者でもあった昭和天皇の言葉である。

雑草扱いされる草の一つに,屁屎葛(ヘクソカズラ)という植物がある。いつ誰がつけたか詳しいことは不明だが,ヒトからこれほど忌み嫌うような名前を付けられた生物を他に知らない。

ヘクソカズラは,1年のうちで今の時期に花をつける蔓(つる)性の植物である。白色の花弁で中心部は紅紫色,葉や茎や実が傷つくと悪臭を放ち,古来,生薬として使われてきた。英語では,スカンク・ヴァインと呼ばれ,かの悪臭を放つスカンクの蔓の意味である。

ヘクソカズラは鳥のフンと共に種が運ばれ,庭などに根づき,花を咲かせ,秋にはムカゴに似た実をつける。繁殖力が強く,地表を這って八方に広がり,他の植物の幹や枝をつたって伸びて行く。そのため駆除されることが多い。

ふとフェンス仕立の綺麗な蔓性の花に目がとまり,近づいてみるとヘクソカズラだったことがある。この花の名前を知らずに花を愛でる人も,きっといるだろう。最近になって,ドライフラワーやリースに利用されることも知った。

所詮名前は空虚な記号に過ぎないといえばそれまでだが,ヒトの場合は,そうは行かない。

人に名前を聞き,どのように書くのかと尋ねると,「少しややこしいんですが」とか「少し変わっているんですけど」と前置きして,漢字表記を教えてくれることがある。相手に嫌なことを尋ねてしまったんじゃないかと,少し申し訳なくも思う。自分の名前を人に伝えることに日ごろから屈託を覚える人がいても不思議ではない。

せっかく親がつけた名前がありながら,日本では,「オマエ,アンタ」と呼び合い,名前を使わない夫婦も少なくない。とは言え,名前は,自分らしさ,その人らしさの部分とつながっているため,こだわりがあって当然だろう。

男女別姓は,パートナーの名前で自分史を上書きしたくないと言う思いもある。他方,親がつけた名前を自分の意思で改名して,自分史を上書きしたくなることもあるだろう。戸籍法上は, 15歳以上になれば,原則一回限りとは言え,自分の意思で改名できるようになっている。

『薔薇の名前』は,ウンベルト・エーコ原作の同名歴史ミステリーを映画化したものである。映画の終わりのところで,次の一節がテロップで流れる。「薔薇は神が名づけた名なり。汝の薔薇は名もなき薔薇」若き修道士アドソは薔薇のように美しい農奴の女性と深い関係に陥るが,その名前を最後まで知ることはなかった。

ヘクソカズラを美しいと思うことはあっても,ヘクソカズラは,屁屎葛であるかぎり,「屁屎葛のように美しい人」と言う表現で使われることはないだろう。

ヒトから,屁屎呼ばわりされながらも,炎天下で可愛い花をつけるヘクソカズラを「屁屎葛のように健気な人」と擬人化して使える機会はあるかも知れない。

ちなみに,「屁」も「屎」も人名には使えない。


(グリーフワークかがわ 精神科医)
2020・8・28




◆2020年8月9日 第149回理事会◆


《審議事項》

第1号議案

2020年度グリーフカウンセラー・基礎コースに関する事項

現在予約している会場と人数の調整をはじめ,講座開催における新型コロナウイルス感染防止対策について具体策を審議した。また現在までの申し込み状況の確認,対応についての報告が行われ,講師会で も検討していくことで了承された。

第2号議案

賛助会員会費に関する事項

議長から監事への相談結果が読み上げられ,賛助会員の定義,会費についての検討を要することから引き続き監事への相談とする事で承認された。

第3号議案

会員への報償費に関する事項

ボランティア役務費を導入する事で同法人の活動費の実際を可視化出来るので導入するという事で承認された。それに伴い,各業務の報償費の基準を提示する必要があり継続審議とする。

第4号議案

寄付金領収証の様式に関する事項

県からの助言の元,新しく作成中の案が示され,引き続き新しい領収書原稿を作成していく事で承認された。

第5号議案

新型コロナウイルス感染予防対策に関する事項

各グループミーティング,講座等で使用できるようガイドラインを作成し,次回理事会で案を提示する事で承認された。

第6号議案

認定カウンセラー登録に関する事項

認定更新者で登録申請が提出されていないカウンセラーには登録証に登録申請の様式を同封して文書で登録依頼をする事,今後は自動登録が可能となるように認定委員会へ規則を変更するよう指示する事で承認された。

第7号議案

会員への情報配信に関する事項

会員への周知徹底のための事務局の対応について審議された。LINEグループ等のSNSの利用等の案も検討し継続審議とする事で承認された。

第8号議案

技術援助事業「愛媛県臨床心理士会からの講師派遣依頼」に関する事項

技術援助担当の花岡理事より,講師派遣依頼について,同法人の趣旨を踏まえた上で必ずしも専門職である講師である必要はないと判断し,引き続き講師派遣について打ち合わせをしていく事で承認された。

第9号議案

自殺予防土曜ホットラインの電話機の不具合に関する事項

新しい本体を西山理事が手配し,見積もりを提出後に購入する事で承認された。

第10号議案

認定更新における指摘事項への回答に関する事項

標記指摘事項のうち「金種表の作成に関する手続き」,「会費にかかる未収計上」,「管理費のうち,コンサルフィーの計上」の回答内容について審議された。

第11号議案

ひまわりミーティングに関する事項

現在まで原則スタッフを3人体制で開催してきたが,参加する認定カウンセラーの人数が少ない事と,現状の新型コロナウイルス感染防止対策の為にも原則2名体制へ変更する事で承認された。また,例年年度末に行われているテーマ募金の告知を今後は通年を通して積極的に行い,現金での領収書不要の寄付については3月31日締めでテーマ募金の街頭募金として計上する事で承認された。



◆2020年8月16日 第93回認定カウンセラー会議◆


  1. 各相談事業の報告
    7月の相談事業について現状報告があった。
  2. 技術援助について9月,10月の予定について説明があった。
  3. 2020年度グリーフカウンセラー養成講座の企画について説明があった。
  4. 実務者研修について7月の報告と今後の案内があった。
  5. 自殺予防土曜ホットラインかがわでの対応についての検討が行われた。
  6. 勉強会

    文献「ともに悲嘆を生きる グリーフケアの歴史と文化」
    島薗進著 朝日新聞出版 朝日選書982

    第5章 悲嘆を物語る文学