2020年(令和2年)3月グリーフワークかがわ
ニュースレター第191号(HTML版)

2020年(令和2年)4月17日 グリーフワークかがわ広報部

グリーフワークデイ街頭キャンペーンに参加して



去る3月15日(日)の午後,JR高松駅前での街頭キャンペーンに参加しました。このキャンペーンはグリーフワークかがわが3月11日から16日まで設定した「子どものグリーフワーク週間」と,同じく3月11日付近の日曜日に設定した「グリーフワークデイ」にもとづいた啓発活動です。当日は季節外れの寒気が日本列島を覆い,時おり冷たい雨が降る強風の中,参加者はそれぞれボードとチラシを手に行き交う人々にグリーフワークやグリーフケアの必要性を訴えました。コロナ騒動の影響か,普段よりも通行する人の数は少ない印象でしたが,こうした啓発活動を継続することは大切だと思います。何かがあった時,相談できる場所があること。見過ごしていた誰かの思いに,ふと気づく契機になること。色々なことを考えながら過ごしたひとときでした。


グリーフカウンセラー 山本匡史



コロナ騒ぎの中でも,子どもの声が聴こえますか?



3月15日午後,ミッションを共にする仲間が,JR高松駅頭に集まった。今年のグリーフワークキャンペーンは,コロナ騒ぎのさなかでの実行であった。意を決しての街頭キャンペーンという思いは,さらさらない。世間は,デマや中傷が飛び交い,まさに騒ぎなのだ。一国のリーダーの吐く言葉が虚しいとこれほどまでに混迷が深まるのかと思う。騒ぎの中,それでも多くの人々は,自分で情報を取り,この問題と向き合い,賢く振る舞うようになって行く。

大切な人や関係を失った子どもの悲嘆については,私たちの社会では,まだ騒ぎにすらなっていない。かつて日本では,第二次世界大戦による空襲や出征先での戦死がもたらした戦災孤児が大きな社会問題になった。戦災孤児の保護対策は,終戦直後の混乱期のため,実効性に乏しく,犯罪に走る孤児も少なくなかった。やがて彼らを「浮浪児」と呼び,保護対策が治安対策の様相を帯びるようになった。

騒ぎが,騒ぎだけで終ってしまうと,割を食うのはいつも弱者だ。浮浪児と呼ばれた彼らは,それぞれどのような人生を歩んだのだろう。地域社会の課題は,やはり騒ぎにせず解決する方が良い。

見捨てられた地域社会の課題は,先に気がついた人が,その気づきを周りへ広げて行く。子どものグリーフケアのヴァイオレット色のアウエアネスリボンには,そうした思いが込められている。

コロナ自粛で,大型イベントが軒並み中止になり,日曜日の3月15日は,サンポート界隈の人通りはまばらだ。にぎわいを求めて大勢人が集まるイベントの中には,他者によってつくられた生活場面に,自分の貴重な生活時間を浪費してしまうものが少なくない。各地から桜便りがとどくいま,国税をつぎ込み約1万8千人を招いて行われた首相の後援会,かの「桜を見る会」は,なくてよいイベントの典型だ。

パネルに書かれた言葉に目を移し,小声でゆっくり音読しながら,通り過ぎて行く人がいる。静かな町が戻ってきた安堵感を覚えながら,人が生きて行く上で大切なことはそんなに多くない,とつくづく思う。

夫と離別して混乱状態にある母親が子どもを連れて相談にやってきたことがある。母親がひとしきり話した後,「お母さんが落ち着ける場所がやっと見つかってうれしい」と子どもは涙をぬぐう。そして,母親は絶句する。子どもは,とっくに母親の喪失感に気づいていたのだ。周りの大人は,こうした子どもに対して,健気だと,無責任なリップサービスを送りがちだ。この子の喪失感に,気がついている大人はいるのだろうか。

寒空で小雨模様の中,手前でパネルに気がついた子連れの女性が,脇目も振らず足早に通り過ぎて行く。そんな姿を見ながら,数年前に出会った8歳の子どもを思い浮かべていた。


グリーフワークかがわ 花岡正憲





参加報告

令和元年度 精神保健福祉ネットワーク事業 〜自殺未遂者支援関係機関ネットワーク会議〜


日時 2020年2月20日14時〜16時
高松市保健センター5階会議室


参加者は,行政機関,医療,警察,消防,民間支援団体で構成される,高松市自殺対策会議のメンバーで構成される。

開会の挨拶の後,高松市の自殺の現状と,自殺対策の取り組みについて報告があり,減少傾向ではあるがまだまだ高い数値である。全国では平成31年度の自殺者数が2万人を割り,19,959人となった。10代の自殺者の増加が今後の課題となる。

情報提供では,SNSによる自殺企図者の情報が寄せられた事案報告があった。情報提供の新しい手段として考えられ,情報をもとに関係各所が連携し対応していく必要性を感じた。グループワークでは,保健センターが携わった事例をもとに行われた。クライアントへの携わり方が,参加者の立場により変わってくることを認識できた。

この会議では,クライアントに対するアプローチをどのようにすればいいのかを考えた。企図者に対して面談することは双方にとって負担が大きいのでは?最初の面談は企図者なのか,携わる家族なのか?頻度は?手段は?などの疑問が出る。各機関ができることは何かを把握し,出来ないことは何処に協力を求めるのか知ることが重要である。それには,各機関の情報が共有できるネットワークが必要となるが,個人情報保護法が大きな壁となる場合が考えられる。しかし,ネットワーク会議に参加することにより,関係者個々が連携を密にし,足りないものを補う関係を構築していくことを期待する。


グリーフカウンセラー 夛田敏恭




 リビングwithグリーフ 


「コロナとの戦い」で良いのか

花岡 正憲


中世ヨーロッパを恐怖のどん底に陥れたペストの大流行の経験の中で,ルネサンス期のイタリアの医学と公衆衛生の先進性を明らかにした『ペストと都市国家―ルネサンスの公衆衛生と医師』(カルロ・M・チポラ著 日野秀逸訳 平凡社 1988年4月)に,感染症の広がりの矮小化工作に関する次のような記述がある。

「自国の利益と公衆衛生への忠誠心との葛藤が,つねに衛生官を苦悩に追い込んだ」「真相を隠せという誘惑は強く,政治的圧力はそれよりずっと強かった。これに対して,道徳的義務を支えたのは現実的な考慮であった。すなわち,伝染病の発生を隠蔽することは不可能であり,噂の方が正確な情報よりももっと人心を恐怖させ,もっとひどい損失をもたらすことになると考えたのである」

新型コロナウイルスへの対応を巡っては,社会経済活動への影響を少なくし,各種の利権を守るために,感染者数を少なく見せたいという政治家の思惑が,場当たり的で一貫性のない対応をもたらしている。人々は疑心暗鬼になり,医療機関は,風邪症状のある人の受診を敬遠し,自覚症状がある人も差別という人災を避けて,受診を躊躇するようになる。いわゆる「隠れコロナ」が,さらに感染を拡大して行きかねない。

安倍首相は,人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証しとして東京五輪を成功させたいという。コロナ危機のさなか,これが終われば,休校で延期になっていた体育祭を開催したいと,学校長が生徒や保護者に自分のこだわりを語るようなものだ。こうした局面では,政治家には,国民に理解と協力を求めるためにも,失われてもやむを得ないことと守るべきことを見極める見識が求められる。

ドイツのメルケル首相は,3月11日,新型コロナウイルスの感染拡大を受けて記者会見を行い,このまま治療法が見つからなければ,ドイツの全人口の60~70%が感染する恐れがあると語った。メルケル首相は,完全な封じ込めが難しくなっている現状を踏まえ,感染の広がりを遅らせ,発生を分散させることにより,医療システムへの過大な負担を軽減し,医療システムの崩壊を回避できると言う。これは,高齢者や別の疾患で医療を必要としている人を守るという観点からも理にかなっている。

感染予防は,自分のためだけでなく,他の人を守るためのものでもある。国民が強い意思を持って感染予防に取り組む上で,一国のリーダーが発するメッセージの持つ意味は大きい。

国民に対する自粛要請で,多くの国民の生活に影響が出ることは明らかだ。とりわけ経済基盤が不安定な国民の生活の安定を優先することが欠かせない。そのためには,国が明確な指針と具体的対策を示すことが求められる。

一方,過剰な自粛は,社会経済文化芸術などの活動分野の停滞を招く。「不要不急」の外出を避けるという表現は混乱を招きかねない。例えば,カフェで過ごし,ショッピングにも出かける。これは,平穏な時だけの贅沢ではなく,人が生きて行く上での大切な時間だからだ。こうした人たちは感染予防に非協力的だとバッシングを受けかねない。

ウイルスとの長期の戦いになっては,戦っていないと見られる人は非国民と見なされる。これでは,人と人との戦いになってしまう。

ヒトとウイルスとの付き合いの歴史は長い。ウイルスは,生物の進化にも役割を果たしてきた。ヘルペスウイルスは,ヒトが一生体内に持ち続け,免疫力が低下すると症状が出ることはよく知られている。風邪症候群の一つであるインフルエンザは肺炎を併発することが少なくない。毎年,わが国でも,数百から多い年は数千人の人が亡くなっている。ウイルスは,ヒトの生活の一部として共存する覚悟が求められる。

1918年から1920年にかけて世界的に流行し,5億人が感染,多くの死者を出したスペイン風邪のウイルスは,変異により病原性が強まったが,やがて弱毒化していった。新型コロナウイルスも変異により感染力が高まったと言われる。人の遺伝子はDNAだが,ウイルスの遺伝子はRNAのため,突然変異が起こりやすい。感染予防を楽観視することなく,やがてウイルスがヒトにとって毒性が低いものや宿主域が違うものになって行くことを期待したい。

いずれにしても,病原性あるいは致死性の高いウイルスは,今後も繰り返し出現してくるだろう。新たなウイルスの登場や眠っていたウイルスの覚醒などは,地球環境の変化とも関係している。

コロナという見えない外の敵と戦うのではなく,コロナ危機の中で,これまでのヒトの生き方や常識を見直してみる。気づかなかった別の敵が見えてくるかも知れない。


(グリーフカウンセラー 精神科医)
2020・3・31




◆2020年3月8日 第143回理事会◆


《審議事項》

第1号議案

2020年度会計担当に関する事項

2019年度の会計委託者から契約期間満了日をもって委託終了の意志の申し出があり,2020年度の会計業務委託者の人選については,4月4日19:00から第144回理事会を開催し,集中審議を行うことで了承された。

第2号議案

2019年度グリーフワークデイに関する事項

新型コロナウイルスの感染拡大防止という観点から,3月15日に予定している街頭キャンペーンを行なうことの可否について審議が行われた。本キャンペーンの実施の中止,または実施方法の変更について,法的,科学的根拠となるものがないことから,予定通り午後1時30分から午後2時30分,JR高松駅前で実施すること了承された。

第3号議案

認定NPO法人更新手続きに関する事項

理事長から手続きの進捗状況について報告があった。現段階では,更新要件を満たさない事項についての諸官庁から指摘はなく,役員の宣誓書の提出を求められ了承された。

第4号議案

会員の活動参加促進に関する事項

2020年度,会員を対象としたアンケートを実施し,2021年度の活動に反映させることで了承された。

第5号議案

役員研修に関する事項

認定NPO法人更新完了後に,役員の全出席を条件として日時を決定することで了承された。

第6号議案

資格認定委員会より資格更新申請受付状況に関する事項

最終的に23名の者から更新申請の書類の提出があった。3月17日午後7時から,更新審査会議を開催すること,審査結果の合否の結果の通知を書面で通知することで了承された。

第7号議案

香川県社会福祉協議会主催2020年度傾聴ボランティア養成講座の講師派遣に関する事項

当法人に対して,前期後期それぞれ3回,年間6回の講師派遣の打診があったことについて審議を行い,これまでの標記事業における講師として実績のあった認定カウンセラーの青井恵子さんを主講師とすることにより,傾聴ボランティア養成講座における「傾聴とグリーフケア」のパッケージを確立するとともに,本講座へのアシスタント講師の同行と講師会議の開催により,人材育成の機会とすることで了承された。

第8号議案

NPO法人取得10周年記念事業に関する事項

第8回実行委員会における提案事項について審議を行なった結果,「子どもの喪失体験」を本事業のシンポジウムの中心に位置づけるために,次回実行委員会では,メインテーマの変更も含めた趣意書内容の再検討を行うことで了承された。

第9号議案

2020年度実務者研修に関する事項

審議未了。

第10号議案

会員への連絡方法に関する事項

認定カウンセラーの更新にともない,認定者及び登録者の変動が予想されるため,法人活動のベースとなる会員リストを作成し,メールで連絡及び事業周知等を行うことで了承された。



◆2020年3月15日 第89回認定カウンセラー会議◆


2019年度に新たに認定されたグリーフカウンセラーも加わり,会議が開かれた。

  1. 各相談事業の報告
    2月の相談事業について現状報告があり,広報の方法を含め,事業内容について質疑があった。
  2. 2019年度グリーフワークデイ街頭キャンペーン,認定カウンセラー実務者研修について周知があった。
  3. 勉強会
    文献「ともに悲嘆を生きる グリーフケアの歴史と文化」
    (島薗進著 朝日新聞出版 朝日選書982)