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グリーフワークかがわ理事長の言葉
かつて精神科医の故小此木啓吾氏は,その著書「対象喪失」(1979年 中央公論社刊)の中で現代社会への強い危機感について触れ,以下のように述べています。「戦争と敗戦によるおびただしい喪失と悲嘆のどん底から出発したはずの現代社会は,いつのまにか,悲しむことをその精神生活から排除してしまった」「対象喪失経験は,メカニックに物的に処理されていく。対象を失った人びとは,悲しむことを知らないために,いたずらに困惑し,不安におびえ,絶望にうちひしがれ,ひいては自己自身までも喪失してしまう」
2000年,ひとりの保健師が地域保健の実践の中で,喪失に対する無理解な対応が人々の心の傷をさらに深くさせていることに強い危機感を覚えました。小此木啓吾氏の問題提起が,すでに社会で深刻化していることを実感せざるを得ない状況が,身近な地域保健現場でも観察されるようになっていたのです。そうした中で,保健師が,地域社会における喪失をめぐるこころの過程への気づきを高める必要に迫られ,地域の関係者に呼びかけて発足したのが「グリーフワーク研究会」でした。以来,シンポジウムや学習会,事前調査に基づくグループミーティングの立ち上げ,冊子の発行などの事業に取り組み,2004年3月には市民グループ「グリーフワーク・かがわ」を設立,その後,事業のさらなる拡充を目的にNPO法人の認証を取得し,2009年11月19日から「特定非営利活動法人グリーフワークかがわ」として活動をしております。
大切な人との死別,これはたしかに誰にとっても深く心に刻まれる悲しみの体験でしょう。しかし,現代社会は,死別に限らず,日常的に大量かつ破局的に私たちの内面や周辺で起きている喪失に向き合い,グリーフワークのこころの過程を取り戻さなければならない時代にあると思います。今日,私たちの生活は,多くの技術革新に支えられています。科学技術の発展を,けっして否定するつもりはありません。私たちの周りには,物と情報があふれ,長距離を数時間で移動可能な交通網が張り巡らされています。いやなことは,お金さえあれば,ほとんどスイッチひとつでリセットが可能な時代です。そんな時代だからこそ,一人ひとりが,自分にとって何か失われたものはないかと,内なる声に耳を傾け,嘆きのこころの過程を回復することが求められているのです。喪失の事実を受け入れ,悲嘆の苦痛を乗り越える力は,人が本来の生き方を見いだす上で,欠かすことができません。日常的に起きている小さな喪失に伴う嘆きの感情を慈しむこと,これが私たちに自然に備わっているいのちを慈しむこころを失わないための営みではないかと思います。
グリーフワークかがわは,喪失にともなうグリーフワークという心の過程への理解が地域に根付き支援の連携が拡がっていくことを目標に活動をしております。今後ともご支援のほどよろしくお願い申し上げます。


2010年9月
グリーフワークかがわ理事長
杉山洋子



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